一枚一枚、丁寧に拾う。【Fallen Leave"S" II】
こんにちは。久方ぶりです。最近は下車の人たちと関わる機会もめっきり減っちゃったのでマジでお久しぶりです。
さて先日、動画を投稿しました。
このブログを読んで頂いている皆様ならご存知なのではないかと思います。そのくらいの自信作「Fallen Leave"S" II」
この動画の素晴らしさと言ったらスタイリッシュで綺麗な映像。表現の一つ一つは薄味でありつつも、新鮮な表現も織り込まれており決して飽きることはなし。まさに絶妙、プロの犯行。なんでこんな綺麗な動画になるの?
そして見れば見るほど、噛めば噛むほど、旨くなる動画であると考えています。動画作者たる和菓子さんも、この通りブログで動画を丁寧に振り返っております。
熱量がすごい。投稿した翌朝の4時くらいに書き上げてなかったか?寝てくれ
動画ほどキラキラしたものではありませんが、音声作者の視点でもこの動画について細かく振り返っていこうと思います。タイトルの「一枚一枚」とは、伏線をはじめとし動画に散りばめられた数々の要素をこのシリーズのキーである落ち葉にたとえました。丁寧に拾ってまいりましょう。
なお、波形のスクショなんて貼っても意味わかんないので、本編のキャプチャを貼りながらその辺の音声についてぐだぐだ書き連ねていこうと思います。
そもそも
合作をするに至る経緯について、ちょっとしたtips程度に書き留めておきます。5年前くらいの話なので解像度は低いかもしれません。
YouTubeのコメント欄でも書きましたが、2人で合作をしたいという話になった際、確か真っ先に素材として候補になったのは小田急の箱根の方だったと記憶しています。Next Takaosan*1投稿直後あたり、2019年7月くらいだった気がします。
一方で相鉄がJRとの直通を始めたのが同年11月30日。つまり7月ともなると鉄道オタクの話題にも挙がってくる時期。「相鉄の方が面白そう」それくらいのノリだった と 思います 多分
原曲を持って来たのは確か自分。開業日の11月30日というのは言わずともがな秋の暮れ。「Fallen Leave」というタイトルはぴったりです。あとは原曲の盛り上がりとか雰囲気とか総じて作りやすそうだなあとフィーリング的な面でもピンと来たから。クリエイターにフィーリングは大事です。
落ち葉拾い
ミレーの絵で拾ってたのは落ち「穂」でしたね。ジャン=フランソワ・ミレーの絵画「落ち穂拾い」は、19世紀のフランスにおける、貧しい農民を描いた油絵です。旧約聖書の「レビ記」には「穀物を刈り取るときは、隅まで刈り尽くしてはならない。貧しい者や寄留者のために残しておきなさい。(概略)」という教えがあり、その教えに従った畑の主により残された落ち穂を拾っているさまが描かれた作品です。しかしご安心ください。この記事においては「拾い残し」をするつもりはありません。
どうやら私はこのように何かの作品を引用した上で準えることが好きなようで、動画の説明文も前作は和歌、今作は歌詞を引用しています。前作の歌はこちら。
高校の授業中に便覧から引っ張って来た歌だった気がします。2020年当時の自分が高校生だったという事実に戦慄。
「木の葉」という単語が用いられているのがポイントですね。何よりタイトルとかかってますから。それでいて意味もある程度通る歌を持って来ました。歌を詠んだ丹波大女娘子の心境と、100年の想いをのせて都心に直通を始めた相鉄の景況を重ねて解釈し、説明文に落とし込みました。お次は今作。
吹き飛ばされる枯葉の舞に 空一群の星は沸く
なお幾万の風さえを分け 着地の時を見逃すまいと(確率の丘/平沢進)
オタク大好き平沢進の「確率の丘」のワンフレーズ。当初は今作においても何か和歌を持ってこようと思いましたが、下車の説明欄に和歌を持ってくる例をたまに見るようになったので逆張りたくなりました。「枯葉」というキーワードが含まれており、かつ歌詞の解釈の上で、今作のコンセプトとも矛盾がないものであると考えております。
街のあらゆるが落ち葉で埋め尽くされる様子は、寂寥とした美しさを演出する。
新宿行きがはじめて走った秋の暮れの日は、そんな情緒ある肌寒い日であった。
トンネルはさらに掘り進められ、第二の念願が春一番となり遂に吹き抜ける日。
さらなる直通に沸く星々は、葉が舞う瞬間を決して見逃さまいと、目を凝らす。(Fallen Leave"S" II 説明文より)
実は!実は!実は!4行とも文字数がピッタリなんです!!!文字数合わせるのめちゃくちゃ大変だった。自信作です。
前置きが長く恐縮です。ただそれはこの動画の味わい深さ、決して動画が全てではなく、それを皆さんにも吟味して頂きたいということの裏返しでもあり、そのような要素からお楽しみ頂ければ幸いです。作品本編のお話をしたいと思います。
見て聞いて頂ければわかる通り、作品の冒頭は前作からの繋がりを強く意識しています。音声は前作そのままでありながら、VSTをかけてノスタルジーな雰囲気を心がけつつ、以後の演出のためにあえて「軽め」に手を入れています。実はここの演出は、とある音声を聴いて以来ずっと自分でもやってみたかったものでした。
東海桜やHakutariaでお馴染み、逸Pさんの「高崎桜」冒頭がまさにです。不朽の名作たる「東海桜」の終わりを持ってくるの良すぎ。しかし前提としてこのような洒落たことをするには、「持ってくる作品が広く知られている名作」である必要があり、やみくもにやったところで微妙になるだけであり、決してハードルの低いものではありません。
そういう面からなかなか手を出さずにいましたが、今作を見てくれる人ならさすがに前作も見てくれてるだろ!くらいの勢いでやりました。今作ではこのように、前作を意識した演出や構成が多々あります。
JR東日本をご利用…のレチは新宿行き一番列車と同じ人。もちろん前作との繋がりを意識しています。どうでもいいけど渋谷で地下潜る演出は、実は俺が口を出して変えてもらいました。JRと東横の乗り換え不便すぎ。
東横線のパート。
ひとつ前のJRのパートにおいては「本日11月30日より…」という放送がありますね。ここの東横線のパートは時間軸で言うと「2019年11月30日(JR直通開業日)〜2023年3月18日(東急直通開業日)」の間ということになります。
この東横パートも、後の目黒パートも、相鉄が直通するまでの日常を表しています。このように直通するまでの日常、2023年3月17日までの東急線をあえて描写することで、「相鉄が直通する」ことが際立つと考えました。
また相鉄直通の開業日は東横線にとってもワンマン運転が開始された日でした。「この電車は 自由が丘と 菊名で 各駅停車にお乗り換えができます」という車掌の放送は、東横線ユーザーなら耳にタコが出来るほど聞いたであろう放送。しかしワンマン運転が始まり、このフレーズは自動放送に置き換えられて聞く機会も少なくなりました。何気ないワンフレーズも、時間軸の演出にしっかりと貢献しています。
次に「この電車は馬車道・日本大通りには止まりませんのでご注意ください」という自動放送。実はみなとみらい線の駅放送は2020年8月に合成音声に更新されており、今は聞くことの出来ない放送です。しかしJR直通開始からしばらくの間は使われていた放送であり、時間軸的にも問題ありません。下車タグにおいて東横線みなとみらい線の動画はとても多く、この旧放送に馴染みのある方も少なくないはず。
音合わせの雰囲気が一気に変わって目黒線パート。
大岡山行きは2020年3月〜2021年1月にかけて走っていた目黒線の上り最終。奥沢行きを一駅延長することで、大井町線との接続を図り利便性が向上しましたが、どっかのウイルスで呆気なく消えました。これも走っていた時期はJR直通〜東急直通の間であり、もちろん意識しています。ちなみにここの電光掲示板を用いた動画表現は紛うことなき天才です。
大岡山終が大岡山に到着し、次に出てきたのは日吉行き最終電車。当時の大岡山終が大岡山に着く頃にはとっくに日吉終は発車していたはずですが、ここは動画ということでご愛嬌。
日吉終の接近放送はしっかり大岡山で録ったものです。これ録ってからチャリで横浜の自宅まで帰りました。家着いたの3時くらいだった。地獄?
日吉行きは、日吉止まりだということを強く意識出来るように刻みを組みました。この時点では日吉より先へは行かないから。ちなみに車内放送を録ったのは全然日吉行きの終電ではなかったと思いますが、接近放送のおかげで日吉終ってことになってるでしょう。当時から目黒はワンマンだったからそんなバリューないし...
終車なのは前作でもこのあたりはかしわ台終と海老名終だったのを意識しています。もし動画に朝と夜があるとすれば、サビはもちろん朝になります。となるとサビ前のこのあたりは夜であり、最終電車というのはそのような解釈をする上でも相性抜群。動画の雰囲気の良さが際立ってていいですね。
最後に差し込まれているのは目黒線、南北線、三田線、埼玉高速鉄道線の2023年3月まで使われていた旧発車サイン音。目黒線系統においても、相鉄直通の引き換えに消えて行ったものをしっかり使っています。音無川の流れ俺はめっちゃ好きだった。
ここでサッと出てくるタイトルには痺れました。線が引かれてくのも良すぎですね。ここから懐古パートに入ります。作っててここが一番楽しかった。なおここまで相鉄を全く出さず、JRと東急だけでこなしてきたのはここのシーンの迫力を一層際立たせたかったから。一番最初が武蔵小杉からだったのはそういうこと。休止した相鉄の急行も実は使いたかったんですが、そういうわけで使いませんでした。
2020年のFallen Leave"S"をハイライトして振り返ります。シーンの選択にあたっては、何人かに好きなシーンを聞いて回ったりもしました。
特急横浜行きは俺が好きだった。
海老名方面は降りたホームで…は誰かが好きって言ってくれた。俺も好き。
かしわ台終と海老名終も好評だった上に、この後の動画の流れ的にも好都合だったので入れました。
遂にJR直通の一番列車が海老名を発車。夜が明けるごとく音声全体にかかったVSTも段々と薄くなっていき、サビに向けて畳み掛けていきます。
大和、二俣川、西谷、羽沢横浜国大…と停車し、羽沢横浜国大の発車放送が流れます。
ここで遂に特急小川町行きが登場。
一気に畳み掛けて来たところでどーんと出てくるの最高にクールな構成じゃない?実はこのような構成になったのはやむを得ない事情も兼ねています。
実は特急小川町行きも特急新宿行き同様、一番列車を収録したのですが、なんと特別放送の類が一切なし。東横はワンマン運転が始まってたので大して期待してなかったんですが、さすがに相鉄の車掌も何も言わないのは想定外。
特急小川町行きの相鉄線内の尺は出来る限り短くし、特別放送のなかった寂しさを誤魔化しつつ、良い感じに仕上げられたと思います。
まもなく〜という刻みは一番盛り上がるところにしてはシャバい気もしますが、この開業で一番のキモである新横浜なので許されたいです。
新綱島も新しく開業したので、他の駅よりも気持ち長めに持ち時間があります。
「Arriving at…」という英語放送は、実は相鉄直通直前に登場した東横線車内放送の新フレーズなのでここで採用。01K 急行新横浜行きを作ってた俺はもちろんそんな更新がされるなんて予想もつかなかったので「We will soon make a brief stop at…」という、当時現役であった更新前のフレーズを使ってます。
渋谷に到着し、男声の接近放送が鳴ります。みなさま大好きの答え合わせパートです。乗車録の反響が凄かったので絶対入れようと思ってました。01Kの時は知り合いの下車作者に吹き込んでいただいた新綱島のパーツ。今回はしっかりと自動放送の声で流れていますし、それを強調したかったのでちょっと目立つように工夫しました。
新横浜到着の際にひかりチャイムを入れようか悩んだものの、音声全体の雰囲気と相性を考えて敢えてやめました。
新横浜からはいずみ野線の特急湘南台行き。JR直通の際に消滅ということで前作には「消える側」として出てきましたが、復活を果たしたのは見事です。発着が横浜ではなく直通線、そして車両が東急車というのも前作と対照的で良い。使わないわけがありません。
いずみ野の待ち合わせも無論前作をイメージして音声を制作。
湘南台に到着し、今度は各駅停車で横浜に上ります。これはお気づきの方も多くいらっしゃったと思いますが、前作冒頭のオマージュです。それでいて東急車の各停というのは直通が始まった証。締めとして申し分なし。
もちろん前作同様、自動放送は英語放送のみを淡々と刻んでいきます。ドラムのみ入れて音合わせはしていません。
約4年の歳月をかけて、横浜から始まった物語が横浜で終わりました。ありがとうございました。
これでもかというほど様々なオマージュに溢れていた今作。私ごとながら、推理小説やドラマなどのフィクションにおいて、丁寧に長い時間をかけて張られた伏線が回収されるのがとてつもなく好きなんです。そしてそれを「提供する側」になれたのがめちゃくちゃ満足度高いんです。電車の動画ひとつでこんなに色々出来るの凄くない?3Dをはじめとした理系的な新表現が台頭しているのに対し、超絶文系的なアプローチが出来たんじゃないかと思っています。
最後にひとつ、すごく嬉しいツイートがあったので貼らせてください。
褒められるとモチベーションすぐ湧くチョロすぎ作者なんで、こうしっかりと目に見える形でお褒めいただくとガチで機嫌いいです。下車作者冥利に尽きます。嬉しすぎて大回転しています。
ブレーキね、俺も大好き。聞くだけで相鉄だって分かる音なの使いやすすぎたし迫力も十分。
音合わせね、前作から相鉄9000、相鉄8000、サビの相鉄12000、今作は西大井の発メロ(春)、東横のドアチャイム、東急3000、サビの東急5050とか色々、とめっっっっっっっっっっちゃこだわってたんですよ。マジでおっしゃる通り会社とか路線によって。
自分は冗談抜きに音作りが結構苦手な方の作者なんで、音合わせをこう褒められるようになるくらいにまでなれたというのは嬉しい、本当に。
刻みの畳み掛けも意識してたので、それをしっかり分かって頂けるとは本当に理解のある方で最強です。こうお一方のみに返事をするのもあまり良くない気もしますが、分かってる方だったんで書かせてください。Twitterもうほぼやめてエゴサ全然してないので何卒。ツイートを教えてくれたオタクもありがとう。
というわけで、最後にもう一度宣伝です。
前作と今作をつなげた音声もSoundCloudにあげたので是非聞いてみてください。合わせるといっても5年も経つと音の作り方も変わっており、違和感のない聴き心地にすべく諸々の調整を加えているしっかりと手のかかった音声です。
ちなみにジャケットはこれ用にわざわざ用意して頂きました。よろしければどうぞ。
次は単作ですね。これはTaka o step Forwardのコメント欄。
出すために動いてはいます。出せるとは言ってないです。それくらいのノリで待っててください。では。