“空母”という粋な訳し方を掘り下げる
大病院占拠の最終回見ました?めっちゃ良くなかった?たしかにCGとかすごい安っぽいところもあったけど、シナリオとか伏線の張り方が丁寧だと全部許せちゃう派です。あと裕子先生めっちゃかわいかったね、こんにちは。
2023年も1/4が過ぎようとしています。なんともう3月も下旬。私は花粉に苦しむ毎日です。
去年末あたりはブログ書くのめっちゃハマってたんですが、気づけばしっかりと勢いは衰えてしまいました。こうなることは自分が一番分かってたというのがまた恨めしく。
このブログには数年単位で放置されていたという前科があります。なので最低限でも月1くらいで記事を出していかないと次の記事を書くのはいつになるのかマジで分からんす。
このブログのどっかで言ったかすら覚えてませんが、今年のこのブログの目標はそもそも月1投稿ということで、今月の錆取り的な、結構どうでもいい記事を書いていこうと思います。
錆取り記事といえば今月を振り替える的な記事がメジャーですが、私は順張りに呑まれるのがなんとなく嫌なのでマジでネタが枯れるまで書きません。あとは旅行の様子を特にテーマなくなんとなく記事にするのも順張りなのでなんとなく敢えて避けています。
あ、読む分にはめっちゃ楽しいので全然書いてくださいね?ただ書いてると負けた気分になるのが嫌なだけのひねくれです。スターつけたりつけなかったりしますので皆さんの記事もお待ちしております。
本題。皆さんは「空母」という単語をご存知ですか?
航空母艦(こうくうぼかん、英: aircraft carrier)は、航空機を多数搭載し、海上での航空基地の役割を果たす軍艦。略称は空母(くうぼ)。
つまりは飛行機が発着できる軍艦。船自体を戦力とするわけではなく、積載している飛行機を主として戦います。
そのような船を指す航空母艦を略して空母と言っているわけです。現代の公的機関も普通に「空母」を注釈なしで使っているあたり、いかに浸透した単語であるかが分かります。
そんな「空母」なんですが、私は初めて聞いた時よりこう思っています。
「空母」って単語すごく趣あると思わない?
だってだってさ、空母って空の母。小学生か中学生の頃だったと思うけど、ロマン溢れるこの響きにたいへん感銘を受けました。
今から80年前の太平洋においては戦術根幹の方針が異なる二つの海軍大国が国の命運を背負って戦っていました。大砲なんかを載せた船自体で戦うのが主流であるとして戦艦を重視していた日本軍、いっぽう航空機を活用した戦術を展開するべく空母を重視していたアメリカ軍、国力の差あれど4年半ちょい戦って結果はご存知の通りなわけです。空母はナチュラルに強いのも事実。
空母が戦闘機を展開し、まず得ようとするのは「制空権」です。裏を返すと空の支配を得るべく飛び立つ戦闘機の基地、つまり母なる存在であるということは、空母は実質は空の母と言っても過言ではないのかもしれません。
とはいえこの記事では空母自体のそんな兵器的な話をしたいわけではありません。ただ飛行機が発着できる船ならもっと安直な名前でもいいのに、なぜわざわざ「母」という文字を使い「航空母艦」と呼ばれるようになったのか。
シンプルに考えても特に「母」要素はないのですが、上記の通り擬人化を施すことで「母」要素を見出すことも可能です。軍がそんな潜考の上で趣を得ようとは考えにくい。戦場で余裕がないのは明らかなので、軍に求められるのは短い言葉で分かりやすく伝えることのできる「単純明快さ」なのではないでしょうか。
にもかかわらずどこの誰だか知らないが、飛行機を艦載する船に「母」という単語を用いて「航空母艦」と名付けたセンスの良い奴がいたのかもしれないというわけです。普段は明らかに伝わりやすさを重んじて考えそうなのに、センスの良さが光っているのにもまたロマンを感じています。そこを考えていきたいと思います。
そもそもなところ空母を直訳してみるとAir ctaft mother Carrierとかになるんですが、英語では“Air craft Carrier”って言うらしいです。直訳すると航空機運搬艦。「母」要素どこ?
ちなみに空母っぽい雰囲気の単語として英語に“mother ship”という単語が補給船的な意味でしっかり存在します。しかしこの“mother ship”を軍用艦に使うことは皆無らしいので、空母云々とは無関係な話っぽそう。
つまり「空母」とは日本における造語の可能性が高い。さすがは豊葦原の千五百秋の瑞穂の国、日本です。
目に映った情景や複雑な恋心さえも高度な語彙力や豊かな感受性を最大限用いた上で、韻を踏んだり対句を成り立たせたりと言葉遊びの要素まで、形の決まった短い文にしっかりと落とし込む事が出来る。そんな渾身の歌がこの国では古来より詠まれてきたのです。
少なくとも私には無理ですし、かつての全国民がそう出来たわけではないでしょうが、この国の歴史はそんなハイレベルな感性を持つ我々の先祖が紡いできたのは事実です。
戦前となると皇軍の軍人は「辞世の句」を詠んでから腹を切ることも少なくなかった。「母艦」という訳は戦前からあったのですから、少なくとも当時の時好として、現代よりも色濃くそのような文化が残っていたのは明らかでしょう。
話が逸れすぎたかもしれません。要は「航空機搭載艦」と訳すべきところで擬人化を通して「航空母艦」と名付けた、歌仙のようなセンスをした日本人がいたのではないかということです。
ということで、日本における「空母」という単語が使われてきた歴史に目を向けてみます。
調べてみると、海軍制度沿革 巻八という、つまりは帝国海軍の制度の沿革をまとめた書物内に「海軍大臣ニ於イテ軍艦及水雷艇ノ類別及等級ヲ定メ若ハ其ノ變更ヲ行フコトヲ得セシメラルルノ件」という1898年3月21日に定められたとされている項目に「水雷母艦」という記述がありました。「海軍軍艦とか水雷艇の基準を定めます」みたいな感じだと思う。「母艦」という表現はおそらくこの時に日本で初めて使われたっぽそう。
なお、水雷母艦は英米だと“Torpedo boat tender”と表記するらしい。
“tender”とは英米海軍においては「飛行機などを搭載せず、海上での補給や乗務員の休養を図る基地機能を持たせたもの」と定義されています。
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航空機を積んでいるから航空母艦、なら水雷母艦は水雷を積んでいるべきでは?
そう、水雷母艦とは艦隊内の立ち位置が空母とは全く異なるのです。水雷母艦というのは駆逐艦や水雷艇を中心とした戦隊内においてあくまで補助的な役割に過ぎません。
うーん、水雷母艦における「母的要素」は航空母艦における「母的要素」とは別なのか。水雷母艦を深く掘り下げつつ考えてみようと思います。
なお「水雷母艦」という単語は、「水雷を搭載した艦」を指すこともあり、これは航空母艦と同様の用法です。しかし、件の標準が制定された年に進水した「水雷母艦 豊橋」については「戦隊の母艦」と記述があります。つまり「母艦」という単語が初めて出てきた際も空母のように「水雷を積んだ艦」ではなく、補給艦に用いられていたのです。
釈然としませんが、他にもこの水雷母艦的な、補給艦的母艦として「駆逐艦母艦」「潜水母艦」というものがあります。補給艦的母艦ということでどちらも補給が主であり、潜水母艦に関しては潜水艦のように潜ることは不可能。
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補給?
ちなみに空母っぽい雰囲気の単語として英語にmother shipという単語は補給船的な意味でしっかり存在します。しかしこの“mother ship”を軍用艦に使うことは皆無らしいので、空母云々とは無関係な話です。
引用: このページのうえのほう
“mother ship”、直訳すると「母船」。英米では「民間の補給船」的な意味で用いられている単語ですが、軍艦に用いられることは皆無。
しかしここでこういう仮説が立てられます。民間の補給船に充てる“mother ship”を軍の補給艦にも同じように充てたのではないか?
上の方でも述べた通り、軍の補給艦にあたる英単語は“tender”であり、しっかりと別単語として存在するわけです。
しかし「母艦」というワードが初めて出てきたのは今から120年以上前の19世紀末。日本という国はやっと日清戦争に勝利したくらいの、鎖から解かれてまだ半世紀も経っていなかった頃でした。英語への解像度が低くてもおかしくはないし、そうでなくとも第一に日本語ではひとつの単語で形容出来るが英語では区別する単語なんてめっちゃあるわけです。*1
「母艦」も“mother ship”と“tender”という2つの意味を包含した日本語として成り立っているのではないか、という仮説。
現象には必ず理由がある。仮説は検証してはじめて結論を得られます。かの湯川先生のお言葉をお借りし、私なりに調べました。
し か し
残念ながら「母艦」という訳の充てられた経緯は国会図書館の史料を漁っても見当たりませんでした。なのでこの仮説も仮設の域を出ることは出来ません。でもこういうことな気がするなあ。
読んでいる皆さんは分かりませんが、私にはこの仮説がだいぶ現実味を帯びているように感じられるので、結構すっきりしています。モヤモヤしてるオタクはDMにレスバ仕掛けに来い。
そもそも「母艦」という訳がどのように生じたのかについては仮説が立ち、結局仮説のままでしたが書いている私が私なりに納得したのでこのブログ的な解決ということにします。
でもこの「母艦」の由来に関する仮説って上記の通り、あくまで補給艦を指す母艦の話なんです。そもそものギモンはそういえば航空母艦でした。
「母艦」と区分された船の中で「対象を搭載して作戦海域まで輸送し、作戦行動の後に収容して整備・補給を行う」という働きをする航空母艦の方がイレギュラーであるのは確か。何度も言っている通り「母艦」の初出は補給艦だったので、空母と補給艦の共通項を考えるべきかもしれません。
艦隊の中枢を成す航空母艦、他の艦に付随しあくまでもサポート的な役割を果たす補給艦...
堂々と艦隊のど真ん中に鎮座する航空母艦と、あくまで他の船にくっついてお世話をするだけの補給艦ということで、対照が際立ちすぎてもはや対称になってますね。これは違う。
対象を収容して整備や補給を行いつつ航行する航空母艦、海上での補給や乗務員の休養を図る基地機能を持つ補給...
むむ???
史料があまりにもないため今回も共通点から推察する形になるのですが「何かを収容する働きを主とする艦」に対して「母艦」という名称を与えたという仮説が立ちました。史料ないから憶測なんだけど!!!!!
まとめです。
-「航空母艦」は英米では「航空機搭載艦」と呼ばれており、日本による造語である。
- 「母艦」という表現の初出は補給艦に充てたものであり、これは英米で民間の補給船を指す“mother ship”に引っ張られたのではないか。(仮説)
- 一見すると補給艦とは全く性格の違う艦である航空母艦だが、双方とも「対象を収用し補給を行う」という働きを併せ持っていることから「母艦」という訳が充てられたのではないか。(仮説)
結局この仮説が事実だとすると、「航空機搭載艦をめっちゃセンスの良い奴が母親のようだと形容した上で『航空母艦』を名付けた」というかつての私のロマンは打ち砕かれることになってしまいます。仮説が仮説で在ってくれるおかげで、可能性は大幅に下がりつつも私のロマンはロマンとして在り続けることが出来るのです。レポートとしては宜しくないけれども、自己満足的なブログ記事としては一番良い終わり方したのでは?
以上、ささいな興味を真面目に考えた駄文でした。私は高校時代に世界史を取っていたものの全然ガチ有識者ってわけではないので、この記事もあくまで素人の自由研究を眺めるノリで味わって頂ければと思います。
ここまで大体5,000文字弱ありましたが、写真もロクになしにただ主観や仮説に溢れたこの記事をしっかり読んでくれたあなたはとてもとても偉いです。
冬が明けるのも間近、まもなく新年度です。季節の変わり目ということで体調にはくれぐれもお気を付けください。花粉症の皆さんもぜひ頑張りましょう。では。
3/24追記:国立国会図書館デジタルコレクションよりコンテンツの転載ページの記載内容に則って、「海軍制度沿革 巻八」内の該当ページの画像を貼りました。
3/24追記2:読んでくれたオタクに「読みやすかったし説得力があった」と褒めてもらいました。にやにやです。
それと同時に彼は「航空母艦」という違う意味の熟語2つを組み合わせたのになぜ頭2字を取った略にならなかったのだろう、という違ったアプローチの掘り下げ方をしていました。非常に興味深い内容なので自分なりの考えを記事に追記しようかと思いましたが、「そもそもなぜ『母』という字を使ったのだろう」というこの記事の軸からは少し離れた話になりそうなので、機会を見つけて後日このオタクとこのネタを肴に酒でも飲んでみようかと思います。
とにかく、派生した新たな疑問が生まれるくらいこの記事をしっかりと味わってくれたオタクがいたことに感激してます。
私自身様々な考えに触れてみたいので、なんかしら自分なりの意見があれば上のオタク同様にツイートで共有しつつ、思うところをつぶやいてもらえると話が広がると思いますので是非。
*1:例:帽子(cap,hat)、豆(bean,pea)、肉(meet,flesh)など